誘惑プリンセス【BL】
「まだ飲むのかよ」
「飲みたい気分なんだよ」
ほんのりと頬を赤くしたヒメはゆっくり立ち上がってペタペタと足音を響かせる。
程なくして戻ってきたかと思えば、俺の目の前に口の開いた缶ビールを突き出してきた。
「やっぱ甘いヤツにする」
一口飲んで、気が変わったんだろう。
ヒメが気分屋なのはいつものことだ。
俺が仕方なく缶を受け取ると、缶チューハイを片手に台所に戻る。
シンク下からポテトチップスの袋を取り出して、ヒメの定位置──小さなテーブルを挟んで俺の正面に座り込んだ。
「ライブ、お疲れ様」
「急になんだよ」
「言ってなかったな、って思って」
「惚れ直した?」
「歌声にね」
俺がそんなことを言うとは思ってなかったんだろう。
少しだけ驚いた顔をしている。
素面の時なら言わない……と言うか、言えないだろうけど。
酒が入ってる今は、普段少し戸惑う言葉も簡単に口を衝いて出ていく。
うっかり妙なこと言って、ヒメを挑発しないよう気を付けないと。
そうは思っても、どうしてだろう。
「普段喋ってる時の声と、歌っている時と、全然違うから──」
するすると、言葉が出ていく。
たかが缶ビール3本位で酔ったんだろうか。