誘惑プリンセス【BL】
「俺にとって、ヒメは特別だよ」
「何言ってんだよ。ホント、バカじゃねぇの……?」
語尾を濁すヒメは、いつの間にか涙で濡れた顔を上げて、俺と真正面から視線を合わせてくる。
「俺と同じ名前なのに、恭介は俺とは全然違くて。恭介と一緒に居たら、俺も何か変われんじゃないかって思ったけど……やっぱ、無理みてぇ」
独り言のように、小声で。
吐き出すように、弱々しく。
静かに紡ぎ出される言葉に、俺は、目を見開いた──
「──今更、だけど。俺……、俺も、恭介が好きだよ」
唇ではなく額に、柔らかな感触が押し当てられる。
涙で潤んだ瞳が、一瞬だけ俺を見詰めた。
「勝手なことばかりして、ごめん」
どこからか取り出した手錠の鍵らしきものを俺の手に握らせて。
俺から逃げるように、ヒメは隣の部屋に行ってしまった。
手探りで戒めを解いた俺は、直ぐ様起き上がってヒメを追い掛けたけど。
閉ざされた扉をノックすることが出来なかった。
#4 ヒメと秘密 fin
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