誘惑プリンセス【BL】
その部屋からは、ヒメの荷物がトランクごと全部無くなっていた。
ヒメの私物が散らかっていたとは言え、その量自体は多くない。
トランクや大きな鞄にまとめることも可能だろう。
慌てて玄関を見ると、大きなブーツ類はまだ残っている。
それに安堵の息を吐いたものの、ヒメがすぐに戻ってくるとは限らない。
俺が仕事で留守にしている時に来るかもしれない。
そして、帰って来た時にはこの部屋からヒメの痕跡が消えているかもしれない。
そう思ったら何だか無性に怖くなってきて…。
バタバタと携帯を取りに戻った俺は、急いでヒメの携帯を鳴らした。
2回……3回、とコールを重ねるが出る気配はない。
拒否されてないだけマシだと思うべきだろうか。
「……ヒメ……っ」
思わず呟いて、携帯を握り締める。
いつの間にか、この部屋にヒメが居ることが当たり前になっていた。
2人分の食事を作ることも、狭いテーブルも、最初は面倒で邪魔で嫌だったのに。
それだけ、ヒメの存在が俺の中に入り込んでいるってことだ。
ここで1人考えていてもヒメが帰ってくる訳じゃない。
何度か深呼吸して自分を落ち着かせてから、ヒメにメールを送る。
ただ一言、連絡くれ、だけを。