誘惑プリンセス【BL】

 小さなテーブルにカップを2つ置いて、俺と陣くんは相向かいに座る。

 静かな室内にはコーヒーの香りが漂って、不思議と人心地がつくような感じがした。


「そういえば、初めて出会った時も陣くんはヒメと一緒だったよね。普段から仲良いんだ?」


 こうやって陣くんと話をするのは凄く久しぶりな気がするけど、よくよく考えてみれば陣くんとだって出会ってからそんなに経っていない。

 なんだか、不思議な気分だ。


「仲が良いっていうか、バンドやってるから一緒にいる時間がある、ってくらいですかね。恭介さんと会った日は、ヒメノが朧さんの所を飛び出して俺の所に来ていたんですよ」

「あ、それはヒメに聞いたことがある」

「正直、俺にはヒメノと同居なんて無理だったんで……ほんと、恭介さんのこと尊敬しますよ」

「そんな大袈裟な……」

「ヒメノとは同じ高校だったんです。あいつは良くも悪くも目立っていたから、バンドやらなきゃ話す事も無かったと思いますね」


 学年も違うし、と陣くんは苦笑いで付け足した。


「新しいバンドを組むからって朧さんに誘われたんです。確か、その時はまだあの2人は付き合っていなかったと思います。あの頃のヒメノはいつも不機嫌で、俺と朔杜さんはヒメノに話し掛けることすら出来なかった……。話し掛けるな、っていうオーラが物凄かったんです」


 陣くんは苦笑いを浮かべながらコーヒーを啜る。

 ヒメが目立つのは分かるけど、話し掛けられない程不機嫌というのはなんだか想像が出来ない。

 確かにヒメの性格は極端な感じだけど、人当たりが悪いようには思わないんだよな。

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