誘惑プリンセス【BL】
 
「ヒメノがそんな風だったのには訳があって……。俺は後から知ったんですけど、ヒメノには腹違いの兄がいて、その人から……、その……」


 突然語られたヒメの過去に俺は「ヒメから、聞いたよ」と、どう話そうか言葉に迷う陣くんへ静かに告げた。


「えっ、ヒメノが自分から話したんですか!?」


 驚く陣くんに俺は静かに頷くしか出来ない。

 辛そうに喋っていたヒメの顔が、脳裏に浮かぶ。


「──当時のヒメノはずっとその事で悩んでいて、精神的にも不安定だったんです。朧さんと付き合う様になってからは、まるで人が変わったみたいに明るくなったんです。でも時々、様子がおかしい事もあって……」

「ヒメはいつも笑っている印象が強いから……」


 思わず俺は、そんなことを言っていた。


 正直なところ、陣くんからヒメのことを聞くのが怖い。 

 あの夜のヒメが頭から離れてくれなくて……。

 ヒメの過去を聞きたくない訳でも、受け入れたくない訳でもない。

 俺は、何があってもヒメを好きでいられる自信があるけど、ヒメは違うかもしれない。

 俺には知られたく無いことがあって、それを俺が知ることで、俺から離れて行ってしまうかも知れない。

 そんな風に思うんだ。
 
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