誘惑プリンセス【BL】
 
「……っ、陣くん」


 話を続けようとする陣くんを止めて、真っ直ぐ彼に視線を送る。


「俺が知らないヒメの事を勝手に喋っていいの?」

「バレたら怒るかも知れないですね」


 視線をカップに落として。

 それでも、悪びれる風も無く、陣くんは言いのけた。


「……っ、じゃあ、どうして……」

「恭介さんは知っておくべきです。ヒメノがどんなヤツなのか」

「どんな、って……」


 俺の知っているヒメはニセモノだとでも言いたいのだろうか。

 陣くんが何を考えているのか全く分からない。

 不信感すら感じ始めたその時──


「そうじゃなきゃ、恭介さんもヒメノも、いつか修復不可能なくらい傷付くに決まってる。そうなってからじゃ遅いんです」


 それが、陣くんの本心なのだろうか。

 だとしたら、少しでも疑ってしまった自分が情けない……。


「陣くんは、優しいんだね」


 優しいのに、彼はヒメを嫌いだと言う。


「何だかんだ言って、陣くんも相当ヒメのこと好きだよね」


 そうじゃなきゃ、こんなにも親身になって話をしたり、心配なんかしないだろ。

 俺の言葉に少し困ったような顔をした陣くんは、ぐい、とコーヒーを飲み干した。
 
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