誘惑プリンセス【BL】
 
「……っ、帰れよ。お前の説教が聞きたくて呼んだんじゃねぇんだ。とっとと帰れよ!」


 感情的に叫ぶヒメを、朔杜さんはただ静かに見つめて、陣くんは苛立ちに顔を歪めている。


 俺はひとつ息を吐いて、足を踏み出す。


「ヒメ」


 そっと呼びか掛けると、俯いたままのヒメが身体を強張らせるのが分かった。

 だから俺は、もう一度名前を呼ぶ。


「煩ぇよ、黙れ」


 拒絶するような言葉も、ただの虚勢にしか感じられない。

 朔杜さんに軽く会釈をして、玄関に立ち入る。

 ヒメの前にしゃがみ込んで、薄い肩に触れた。

 振り払われないか心配だったけど、俺の手は、やっとヒメに届いたんだ。

 それだけで。

 肩に触れられただけで、こんなにも嬉しいだなんて。
 
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