誘惑プリンセス【BL】
 
「いつまでそうやってイジけてるつもりだ! 皆に迷惑掛けてんの分かってるだろ!?」


 びっくりしてるのは、ヒメだけじゃない。

 陣くんも朔杜さんも、呆然と俺達を見ている。


「……っ、こんな間近で大声出すんじゃねーよ! 耳が痛ぇだろっ!」


 噛み付く様に言い返して来るヒメの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。

 そんな顔で怒っても、逆に可愛いだけだっつーの。

 笑いたくなるのを堪えて、俺はヒメを正面から見つめた。


「このくらい大きな声で言わなきゃ、お前は聞いてくれないみたいだからな」


 言って俺は、ヒメを抱き締めた。

 顔を埋めた首筋からは、煙草と甘い香水の匂いがする。

 ヒメの、匂いだ。


「……俺、ヒメが凄く好きだ」


 自然と、そんな言葉が口を突いて出て来た。


「……知ってる」


 小さな小さな返事の後で、ヒメの手が俺の腕を掴む。

 いつも通りの返事に、俺は酷く安堵した。
 
< 144 / 171 >

この作品をシェア

pagetop