誘惑プリンセス【BL】
「いつまでそうやってイジけてるつもりだ! 皆に迷惑掛けてんの分かってるだろ!?」
びっくりしてるのは、ヒメだけじゃない。
陣くんも朔杜さんも、呆然と俺達を見ている。
「……っ、こんな間近で大声出すんじゃねーよ! 耳が痛ぇだろっ!」
噛み付く様に言い返して来るヒメの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
そんな顔で怒っても、逆に可愛いだけだっつーの。
笑いたくなるのを堪えて、俺はヒメを正面から見つめた。
「このくらい大きな声で言わなきゃ、お前は聞いてくれないみたいだからな」
言って俺は、ヒメを抱き締めた。
顔を埋めた首筋からは、煙草と甘い香水の匂いがする。
ヒメの、匂いだ。
「……俺、ヒメが凄く好きだ」
自然と、そんな言葉が口を突いて出て来た。
「……知ってる」
小さな小さな返事の後で、ヒメの手が俺の腕を掴む。
いつも通りの返事に、俺は酷く安堵した。