誘惑プリンセス【BL】
「……恭介」
「ん?」
「俺、ほんとに帰って良いのか」
「じゃなきゃ迎えになんて来ないよ」
「そっか……」
俺が顔をあげると、今度はヒメが俺の胸に顔を埋めて来た。
何かをごにょごにょ言ってるみたいだけど、小さ過ぎて全く聞こえない。
「ヒメ? どうした……」
「落ちたな」
「え?」
腕を組んだ朔杜さんが、溜息混じりに言った。
そっとヒメの様子を窺うと、規則的な息遣いが聞こえてくる。
この状況で寝る、ってどういうことだ。
分からないことだらけだが、ヒメを落とす訳にはいかない。
いわゆる「お姫様抱っこ」をした瞬間、その体重の軽さに別の意味でどきりとした。
多分、ここ数日ちゃんと食べてないんだろう。
帰ったら、しっかり食べさせないと。
ヒメの顔を見ながらそんな事を考えていると、不意に陣くんが「ありがとうございます」と声を掛けて来た。
寧ろ、お礼を言いたいのはこっちなのに。