誘惑プリンセス【BL】
「俺に出来る事は少ないかも知れないけど、ヒメが笑って居られるように頑張るよ」
ヒメの居場所に、帰る場所に、なれるように。
「……まぁ、こうやって大口叩いても、そのうちヒメに見限られるかもしれないんだけどね」
「その時は俺の出番ですから」
気持ち良過ぎる陣くんの笑みに、何だか薄ら寒いモノを感じてしまう。
思わず笑って誤魔化してしまったけど、ちゃんと返してやれる程の心の余裕みたいなものは、残念ながら底をついている。
そんな俺の心境が伝わってしまったのかどうなのか、陣くんは「それじゃ、また」とだけ残してバイクに跨ると、闇夜へと消えて行った。
エンジン音が遠ざかってしまうと、ヒメを抱きかかえているという今の状況が、酷く不思議なものに感じられた。
とは言え、いつまでもここに突っ立っている訳にもいかない。
タクシーに乗り込んで、俺のアパートを目指した。
静かに寝息を立てるヒメの顔を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていくような気がする。
やっと、俺の元にヒメが帰ってきたんだ。
そう思うと、何だか目頭が熱くなってきた。
こんなにも誰かを想った事なんて無い。
誰かを本気で好きになるって、きっとこういう事なんだろうな。
辛い事も、嬉しい事も、全部が幸せに繋がっているような気がするんだ。
気を抜くと、涙が零れそうになる。
ぐっと堪えて、俺はそっと、ヒメを抱く腕に力を込めた。
#5 恭介の苦悩 fin
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