誘惑プリンセス【BL】
「……っ、ヤバい!!」
慌てて立ち上がり、もたつく足をどうにか動かしてベランダに出る。
どうしてベランダに出たのか自分でも分からないけど、今はとにかく連絡だ!
あろう事か、今日が出勤日である事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「──すみませんっ、黒崎です!」
仕事を休むなんて選択肢、今までの俺だったら無かった。
けど今は、ヒメの傍を離れたくない。
ヒメを1人にしたくないし、何よりも、また俺の知らない間にヒメが居なくなっている、なんて事になったらと思うと……。
「──すみません、本当にすみません……っ」
何度も同じ言葉を繰り返して、俺は人生初の『仮病で仕事を休む』を実行してしまった。
罪悪感は残るけど、後悔は無い。
ベランダから部屋に戻ると、いつの間に目を覚ましたのか、ヒメが起き上がっていた。
まだ眠いのか視線が揺らいでいるが、俺と目が合うなり布団の中に逃げ帰ってしまう。