誘惑プリンセス【BL】
 
「……ヒメ?」


 逃げられる理由がさっぱり分からない。

 ベッドに歩み寄って布団を引き剥がそうとした時、小さな声で「恭介」と呼ばれた。

 布団に伸ばし掛けた手を止めて、俺は床に座り込む。

 モゾモゾと布団が動いて、チラリとヒメが顔を覗かせたけど、すぐにまた引っ込んでしまった。


「……恭介が迎えに来たの、夢か何かだと思ってた」

「俺だって、会った途端に寝落ちされるとは思わなかったよ」

「……陣から聞いてねーの?」

「何を?」


 俺が短く返すと、布団のせいで聞き間違いかとは思ったけど、確実にヒメは舌打ちした。

 何か言い難い事でもあるんだろうか。


「聞いてないなら、いい」

「気になるんだけど」

「余計な心配させたくない」

「そんな事言われたら逆に気になるって!」


 黙り込んだまま動かなくなったヒメにそっと呼びかけると、観念したのか手だけがおずおずと布団から伸びて来た。

 何となくその手を取ると、ぎゅ、と握り込まれる。
 

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