誘惑プリンセス【BL】
「俺、さ……」
か細い声を聞き逃さないよう、俺はベッドに近付いた。
ヒメの手を両手で包み込んでやると、ヒメもまた俺の手を強く握ってくる。
多分これからヒメが言う事は、俺には知られたくなかった事なんだと思う。
少しでもヒメを安心させるようなつもりで、俺は手を握り直した。
「兄貴の事がトラウマみたいな感じになってて、アイツ以外の誰かが隣に居ないと寝れないんだ」
いつだったか、ヒメが言っていた。
『1人じゃ寝れない』
『誰か居ないと寝れない』
それはただの悪ふざけか何かだと思ってた。
けど、そんなんじゃなかったってことか……。
事情を知らなかったとはいえ、知らずのうちにヒメを苦しめていたのかと思うと、胸が締め付けられるような気がする。
「1人でベッドにいると、アイツが来るような気がして、怖いんだ……」
「それでも、1人の時は?」
「……どうしてもダメな時は、睡眠薬、飲んで寝る」
その言葉に、ヒメが抱えているモノの大きさに気付かされた様な気がした。
お兄さんとの事を決して軽視していた訳じゃない。
普段のヒメからはその心を蝕む影みたいなものは余り感じられなかった。
一緒に居る時間が増える程気になる事は増えて行ったけど、踏み込んではいけない一線があるような気がしていたんだ。