誘惑プリンセス【BL】
 
「ヒメ?」


 呼び掛けると、びくりと肩が揺れた。


「どうかした?」


 黙ったままでいるのが気になって尋ねると、俺の腕の中で小さく身体を丸め込んでしまう。


「……っ、どこか具合悪いのか?」


 何も言ってくれないヒメのことが段々と心配になってきて、本当は具合い悪いのに俺に心配させまいと隠してるんじゃないか、と考えてしまう。

 どうしたら良いのか分からず、俺はそっと呼び掛けた。


「……っ、ゴメン、なんでも、無いからっ」

「何でも無い訳ないだろ!」


 やっと返事をしたかと思うと、その声は涙に濡れたもので。


「気分悪いのか? それともどこか……」

「そうじゃない……、俺っ、どうしよ、こんな……っ」


 肩を震わせて声を詰まらせるヒメに少しでも落ち着いて欲しくて、そっと背中を撫でる。

 暫くそうしていると、不意に「恭介」と聞き逃してしまいそうな程小さな声に呼ばれた。
 
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