誘惑プリンセス【BL】
 俺が部屋に帰り着いてまずやることと言えば、玄関に明かりを点けること。

 気が付くと増えていたり減っていたりするヒメの靴を蹴り飛ばさないようにする為だ。

 前に一度、気付かずに踏みつけて転んで、スネを強かに打ち付けたことがある。

 傷にはならなかったものの、物凄い青あざが出来ていた。


 相変わらず、派手な靴が玄関を占領している。

 重そうなブーツに、ゴテゴテと鋲のついた靴。

 厚底のスニーカーに、ラバーソール。

 極めつけは、女の子が履きそうなミュール。

 一体、どこで買ってくるんだ?

 ……いや、考えるまでもなく靴屋なんだろうけど。

 転がっているミュールを揃えて置き直して、玄関の明かりを消す。

 再び暗闇に包まれた廊下を歩いて、部屋に辿り着く。

 何気なく目に付いた台所には、綺麗に洗われた食器が重ねて置いてあった。


 ヒメ……な訳ないな。

 きっと、陣くんが片付けてくれたんだろう。
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