誘惑プリンセス【BL】
 顔が赤くならないよう、ヒメを意識しないようにする自分が酷く滑稽で、段々バカらしくなってきた頃。

 最寄り駅に着いた途端、ヒメが俺から離れていった。


「切符買ってくるから、恭介はそこで待ってろ」


 ビシリと指さされ、定期があるとは言えなかった。


 カツカツと小気味良い音を立てて歩いていくヒメの後ろ姿は、歩き方までがいつもと違う。

 ふと、切符売り場周辺の視線がヒメに集まっている事に気付く。


 男だと気付かれて奇異の視線で見られているのかと思ったけど、どうやらそうじゃなさそうだ。

 ヒメの隣に立ったサラリーマン風の男が、盗み見するみたいにして見てる。

 ついでに鼻の下も伸びてる。


 ソイツ男ですよ、って言ってやりたい。

 どんな顔するのか気になるじゃないか。


 女装スキルとでも言うんだろうか。

 そんなものをどこでヒメが身に付けたか知らないけど、ここまで堂々とやられるとヒメだということは勿論忘れないけど、男だってことを忘れてしまいそうになる。
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