誘惑プリンセス【BL】
 改札に向かって階段を降りながら、ヒメが話し掛けてきた。

 ここなら雑踏に紛れて目立たない、とでも思ったんだろうか。


「電車に乗ってる間、ずっとボケボケしてただろ。何考えてたか当ててやろーか」


 思った通りの切り出しに、俺は一瞬ドキリとするが、ヒメがそう言って来るときは多分大丈夫だ。

 俺のやましい気持ちはきっとバレてない。


「俺のミリョクにときめいてた?」

「そんな訳あるかよ」

「じゃあ、何な訳?」


 少し考えて、いつもの仕返しとばかりに、俺は笑顔を作る。


「どっからどう見ても女の子なのに、胸だけはまっ平らだな、って考えてた」

「……上から、見てたのか?」


 隠すモンでも減るモンでも無かろうに、ヒメはカーディガンの前を合わせて、セクハラだとか何だとか、ブツブツ文句を言い出した。

 そんな事気にするようには見えないだけに、妙な可笑しさが込み上げて、ついに俺は声に出して笑い出してしまった。


「笑ってんじゃねーよ!」

「──……ッ!?」


 すかさず俺の脇腹に肘鉄がヒットする。

 威力バツグンのソレは、紛れもなく男の腕力が成せる業というか……。

 息が詰まる程の衝撃を受けてよろめく俺を、ヒメはお構い無しに引っ張って歩いてくれやがった。



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