誘惑プリンセス【BL】
 インテリアショップを未練がましく見詰めているヒメの腕を、今度は俺から引いて歩き出した。


「なんだよ。折角なんだから見ていっても……」

「いいから、ちょっと来いって」


 出来るだけ人気の無い、立体駐車場へと続く階段の前まで来たところで、俺は足を止めた。


「迷った?」


 クスリと笑うヒメに、俺は「違うよ」とだけ返して、正面から向き合う。


「あのさ、俺、ヒメに……──」

「──恭介!?」


 俺の言葉と被るようにして、知らない声に呼ばれた。


 こんな時に誰か知り合いと鉢合わせたのかと声のした方に視線を向けると、スーツ姿の若い男がびっくりした顔してこっちに歩いてきた。

 キレイにまとめられた黒髪と、細い黒縁の眼鏡。

 いかにもサラリーマンな出で立ち。


 ……誰だ?

 俺はこんなヤツ知らないけど、向こうは明らかに俺を知ってる風だ。
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