誘惑プリンセス【BL】
「謝んなくていいよ。名前なんて、忘れていいから」

「いや、忘れちゃダメだろ」

「名前で呼ばれんの、好きじゃねぇんだよ」


 らしくなく俯いて、溜め息を吐く。

 何となく重みを増していく空気が嫌で、俺は明るく声を出した。


「そういや、さっきの人ってヒメのお兄さんなんだろ? 余り似てないんだな」

「ああ……、アイツとは異母兄弟だし、俺はすっげー母親似だから」


 もしかしなくても、今の質問はマズかった、だろうか。


「ヒメ……」

「そろそろ、帰ろっか」


 急に立ち上がったヒメは、俺の方をちらとも見ずに駅に向かって歩いていく。

 やっぱり、聞いたのはマズかったか。


 よくよく考えてみれば、ヒメは自分の事を余り話さない。

 異母兄弟ってことは、複雑な家庭環境で育ってきたんだろうか。

 いや、勝手にそう判断するのはよくない。

 複雑で人にも話したくないような事なら、さっき会った人がお兄さんって事も、異母兄弟って事も、言わないハズだ。


 一人でさっさと歩いていってしまうヒメを追い掛けて、俺達は帰路へ着いた。



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