誘惑プリンセス【BL】
 
 その日、俺が起きてリビングとは名ばかりの部屋へ行くと、ベッドにヒメの姿は無かった。

 朝、ヒメが居ないのは珍しい。

 珍しいからって、別に心配したりはしないけど。

 どうせ、陣くんたちと遊んでいるんだろう。


 一緒に暮らしているからって、俺とヒメとの間に同居するための約束事なんて無い。

 家事全般は俺がやっていて、ヒメはただここに帰ってくるだけ。

 まるで餌をせびってあちこちを転々とする野良猫みたいだ。


 ヒメとは相変わらず生活時間がかみ合わないけど、よくよく考えてみればここ数日はまともに顔を見ていないかも知れない。

 悩んだ挙げ句俺はマスターの店に就職することに決めた。

 その所為で出勤時間も帰宅時間も変わった。

 朝は前よりのんびりになって、夜は前よりも遅くなった。


 そう言えば、ヒメには就職したことを話していなかったな。

 話さなきゃイケナイことじゃ無いけど、前みたいに夕飯作ってやれなくなったんだ。

 その理由くらい、伝えておいてもいいだろう。


 そんなことを考えながら朝メシの準備をしていると、玄関の方で物音がした。
 
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