誘惑プリンセス【BL】
ヒメに、いらない、なんて言われると思って無かった訳じゃないけど。
ついクセで2人分用意してしまっていた。
まぁ、ヒメの分は後で食べてくれればいいや、ってことで。
BGM的にテレビを聞き流しながら朝メシを食べていると、シャワーの音はいつの間にか消えていた。
結局、俺の出勤時間になってもヒメがこっちに来ることは無く、部屋から出てくる様子も無いのだが──。
「おーい、ヒメ。廊下と洗面所が水浸しなんだけど」
体も拭かずに浴室から出て行ったんだろうか。
ヒメが通ったと思われる所が濡れている。
部屋の中も水滴だらけになってるんじゃないだろうな?
「ヒメ?」
返事は無し、か。
溜息を軽く零しながら、洗面所と廊下を拭いていく。
そして最後に、部屋の戸に手を掛けた──
「──開けんなッ!!」
突然響いた声に、思わず身体がビクついてしまう。
何度目か分からない溜息を吐いて、俺は扉に向かって話し掛けた。
「仕事行ってくるな。冷蔵庫にさっき作ったヒメの分のメシ入ってるから」
扉の向こうは静まりかえったまま、やっぱり返事がない。
返事が無いのを承知で、俺は「いってきます」と静かな空間に呼び掛けた。