誘惑プリンセス【BL】
 
 もうすぐアパートに着く、そんな距離まで来た時。

 2階へ上がる階段の手前に、誰かが立っていることに気付いた。

 あんな所で煙草吸わなくてもいいだろうに、とは思いつつ、アパートに住んでいる誰かかその友達だろう。

 暗くてよく見えないけど、男だって事は分かる。


 茶髪の彼の前を通り過ぎて階段を上がろうとしたら、「あんた、黒崎恭介だろ?」って突然声を掛けられた。

 振り返ってみても、その顔に見覚えは……無いと思う。


「そうですけど、どちら様?」

「『朔杜』って名前に憶えある?」

「……ああ! ヒメのバンドの?」


 確か、ドラムの人じゃなかったか?


「ヒメなら今、出掛けてるみたいですけど」

「知ってる。あんたに話があるんだ」


 唐突に、しかもこんな遅い時間に何なんだろう。

 立ち話もなんだから、部屋に来るかと聞けば、素っ気なく断られた。


 つか、ヒメのバンドの人が俺なんかに何の用だってんだ。

 ヒメのことならヒメに直接話せばいいのに。


 そんな風に、適当に思っていた矢先、彼の口からとんでもない言葉が飛び出してきた──
 
< 90 / 171 >

この作品をシェア

pagetop