誘惑プリンセス【BL】
もうすぐアパートに着く、そんな距離まで来た時。
2階へ上がる階段の手前に、誰かが立っていることに気付いた。
あんな所で煙草吸わなくてもいいだろうに、とは思いつつ、アパートに住んでいる誰かかその友達だろう。
暗くてよく見えないけど、男だって事は分かる。
茶髪の彼の前を通り過ぎて階段を上がろうとしたら、「あんた、黒崎恭介だろ?」って突然声を掛けられた。
振り返ってみても、その顔に見覚えは……無いと思う。
「そうですけど、どちら様?」
「『朔杜』って名前に憶えある?」
「……ああ! ヒメのバンドの?」
確か、ドラムの人じゃなかったか?
「ヒメなら今、出掛けてるみたいですけど」
「知ってる。あんたに話があるんだ」
唐突に、しかもこんな遅い時間に何なんだろう。
立ち話もなんだから、部屋に来るかと聞けば、素っ気なく断られた。
つか、ヒメのバンドの人が俺なんかに何の用だってんだ。
ヒメのことならヒメに直接話せばいいのに。
そんな風に、適当に思っていた矢先、彼の口からとんでもない言葉が飛び出してきた──