誘惑プリンセス【BL】
「──あんた、どういうつもりでヒメノと一緒に居るんだ?」
「どういう、って……?」
「しらばっくれんなよ。あんなに不安定になるまで放っとくなんて、あんたどうかしてるぜ」
ヒメが、不安定?
確かに最近のヒメはいつもと様子が違うこともあったけど、不安定って何なんだよ。
「ヒメノのこと、何もかも理解してるとか思ってんだろ!? アイツを抱いてやれねぇくせに思い上がるのもいい加減にしろよ」
「……っ、ちょっと待って。何を勘違いしてるか分からないけど、俺とヒメは別に付き合ってる訳じゃ……」
「綺麗事抜かしてんじゃねぇよ。あんたがヒメノを抱けないってんなら、ヒメノは俺が預かる」
一方的に突き付けられる言葉に、俺はまともに言い返せなかった。
ヒメに何があったのか、どうして朔杜さんがわざわざ俺にそんなことを言ってくるのか。
全く見えてこない。
だけど──
「──昨日、ヒメノは泣きながら『抱いて』って言ってきた」
昨日。
ヒメは、帰ってこなかった。
それは、朔杜さんと一緒に居たから、で。
「俺はあんたと違って、ヒメノを抱いてやれる。ヒメノを助けられる」
ヒメがどこで誰と何をしてようと、俺には関係無い。
ずっと、そう思ってきた。
それなのに、告げられる事実に、心を鷲掴みにされる。
どくどくと鼓動だけが響いて、その場に縫い留められたみたいに、身体を動かすことが出来ない。
息苦しささえ、感じる。
「あんたみたいなヤツに、ヒメノと居る資格なんてねぇよ」
俺に睨みをきかせて静かに踵を返す朔杜さんに、言い返す言葉が見付からない。
遠くなっていく背中を、ただただ見ていることしか出来なかった。