誘惑プリンセス【BL】
 
 心がざわついて、何だか気持ち悪い。

 朝帰りしたヒメのことを責めるつもりもなければ、軽蔑するつもりもない。

 それでも、ヒメのことを考えると、冷静じゃいられなくなる。

 重い体を引き摺るように、壁伝いに部屋に辿り着いた俺は、肩から掛けたカバンもそのままにベッドに倒れ込んだ。

 そして直ぐ様、軽く後悔した。

 ヒメにベッドを貸してる所為で、微かにヒメの──香水の甘い匂いがしている。

 この部屋は、いつの間にかヒメの存在感で一杯になっていた。

 嫌でも俺に、ヒメのことを思い出させる。


 ヒメは、ここにいて、俺なんかと一緒にいて幸せなんだろうか。


 ここに居ることを強要しているつもりはないし、そんなことした憶えもない。

 だって、俺たちは別に同棲しているわけじゃないんだから。

 ただ、気付けばここにヒメが居ることが当たり前になっていた。

 この部屋にヒメが帰って来るのが当然だと思っていた。

 ヒメと出会う前は、この部屋に他人の存在なんて感じたこと無かったのに。

 1人きりで居ることに、違和感なんて感じなかったのに。

 不思議と今は、1人だと思うことに淋しさにも似た感覚が襲ってくる。


 ……ヒメ、帰ってくるかな。


 小さなテーブルに肘を突いて、溜め息を吐き出すのと同時に頭を抱える。

 ピリリとした火傷の痛みなんて、もうどうでもよくなっていた。
 
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