誘惑プリンセス【BL】
 
 どれくらい、そうしていただろう。

 もう何度目かも分からない溜め息を吐いた時、玄関で物音がした。


 ──ヒメが、帰ってきた。


「あれ、どうしたんだよ。まだ起きてたんだ?」

「……ああ、お帰り」


 俺がまだ起きていることに驚いてはいるが、朝の態度が嘘みたいに明るく話し掛けてくる。

 いつもの、ヒメだ。


「仕事でなんかあった?」


 俺の正面に腰を下ろしたヒメは、頬杖を突いて俺の顔をじっと見てくる。


「今の恭介、すっげー変な顔してる。写メって見せてやりたいくらいなんだけど」

「別に、何もないよ」

「じゃあ、ソレ何?」


 腕の絆創膏を指差され、仕事で、と軽く言葉を濁した。


「そんなデカい絆創膏見るの久し振りなんだけど」


 言いながら手を伸ばしてくるから、俺は慌てて腕を引く。


「こーゆー時は、パーッと酒でも」

「そんな気分じゃない」

「何だよ。超キゲン悪ぃじゃん」


 まるで、今朝のことが無かったみたいに明るい。

 本当ならヒメのこういう所に救われるんだけど、あんな話を聞いてしまった後じゃ……素直に喜べない。

 空元気ではなさそうだけど、どこか不自然さを感じてしまう。


 ヒメの顔をちゃんと見ることが出来ない。

 俺、朔杜さんに嫉妬してるんだろうか。

 したって、意味無い……だろう?
 
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