誘惑プリンセス【BL】
 
「ケチ。キスくらいいーじゃん」

「駄目だ」

「なんだよ。ホントはしたいくせにさ」


 その言葉に、俺は言い返せなかった。


 本当は、ヒメとキスしたいって思ってる。

 触れてしまったら、離れがたいことを知ってしまったから。


 抱き締めあって、ゆっくりと、深く、触れることが出来たらどんなにいいか。

 思いが通じ合ったら、どんなにいいか。


「──ヒメ」


 立ち上がろうとしたヒメを呼び止めて、女の子みたいに華奢な手を捕まえる。


「なに?」

「好きだよ」

「……なんだよ、急に」

「俺、ヒメが好きだ」

「そんなこと知ってるし。つーか、もしかして本気の告白?」

「そう聞こえない?」

「さっき言ったじゃん。縛られたくない、って」

「でも、俺の気持ちは変わらないから」

「……俺だって、変わんねぇよ……変えらんねぇよ。そんな真面目な顔して好きとか、言うなよ。俺にはもう分かんねぇよ!」


 俯いたヒメが、ぶっきらぼうに言葉を吐き出す。

 その表情は、今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。


 そんな顔させる為に、気持ちを言葉にしたんじゃない。

 ヒメを悩ませたり、苦しめる為に言ったんじゃない。
 
< 96 / 171 >

この作品をシェア

pagetop