新アニオタ王子



事務所の扉をそっと開けると

香月さんは誰かと電話していてあたしは艶めいた黒の革張りソファーに腰をおろした。


それに気づいた香月さんは
手で、「待ってろ」のサインを出し、用件を早く済ませようと電話の相手と話しをしている。


こんな風に事務所に居て、今まで別の女の子と遭遇した事は一度もない。

うまい具合に女の子同士が鉢合わせしないように

女の子のプライベートを守るために、黒服の従業員達の完璧なシステム対応には毎回ため息が出るほど感謝する。



香月さんとは恋人同士でもないけれど…

なりたいとも思わないけれど

別の女の子をも、あたしと同じ様に扱ってるかもしれないことを想像したくないから…。


どうせこんな関係でも

ここで働く女の子の中でやっぱりあたしだけを特別視していてもらいたい。

そんな風には思ってしまう。



電話を切った香月さんはあたしの真向かいの一人掛けの椅子に腰をかけ

「単刀直入に聞くけど…」

と、間をおかずに言った。



その表情はいつものように無機質なほど、感情の読めない眼差しで

つい、苦笑いがこぼれてしまう。

「なんですか?」

「今、お店の女の子の中で
変な噂話が流れてる。」

「…噂?あたしの耳には一切はいってないですけど?




ってか、噂を言い合えるようなシステムにはなってないでしょ?



「うちの店の規則をNo.1のマユならしっかり分かっていると思うけど…

君が客の男とできてるって…色んな女の子から聞かされてるんだ。」



「あたしが!?」

身に覚えの無い事に驚いて大きな声が思わず出てしまった。


そんなデマを仲良くなれるはずのない女の子達が…?


香月さんはそんなあたしを見て

「だよな…」と、苦笑い混じりに呟く。



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