新アニオタ王子


「ありがとう。

マユちゃんって思ってたよりも優しいんだね?」

たかだか130円の缶コーヒーをすすりながら呟かれた。


…私だって

なんで優しくしてんのか
分かんないよ。



「…私が言うのもなんだけどさ

アニメのキャラを好きなのはそれでいいかもしれないけど…だけど、きっと生身の人間の方があったかいと
思うよ?」


あたしの言葉に

思いきり首を横に振り拒絶するオタク。



「…生きてる女は裏切る。

けど、マホリンは僕を裏切ったりしないし。

マホリンは、いつまでも変わる事なく、今のままのマホリンでいてくれる。」



気持ち悪い発言だけどその裏には

過去に何かあったかの様にも聞こえた。


けど、あたしはオタクの胸に人差し指を指して



「でも、胸ん中あっためてくれんのは

…その生きてる人間だけなんじゃない?」



あたしだってまともに誰かを好きになんかなった事なんてないけれど…

そんな気がしたから…


そうなんじゃないかって思ったから…


偉そうに言ってみた。



すると俯いたまま「No.1で誰からも愛されてるマユちゃんには分からないよ」

あたしの顔も見ずに、吐き捨てるように呟く。


そうかもね。

だけどあたし。

誰かを愛した事なんて無いから

オタクのあんたと同じ部類かもしれない。

ため息だけ返して他 立ち上がる。


「あたし帰っていいんだっけ?」


「えっ?う、うん。」

驚いたように顔をあげたオタクに

「じゃあ帰るわ。疲れたし。」

と、軽くさよならを告げると

「今日はありがとう」と、律儀な言葉。


「こちらこそまた、縁があったらどこかで会いましょう。」


営業用のセリフを言いながら後ろ向きに

手をひらひらさせてあたしはオタクと別れた。



もう二度と会う事は無いと
思うけどね。

< 29 / 100 >

この作品をシェア

pagetop