新アニオタ王子

すると突然、オタクの母親が深妙な顔付きで聞いてきた。



「ねえ、あなた達本当に
お付き合いしてるのよね?」




最初からあたし達を疑ってるんだ。

いつかされるかもしれない質問だったことはあたし達の頭にもあった。



「もちろんだよ。ねえ、マユちゃん?」

「うん。マサ君とあたしラブラブだよね」


打ち合わせ通りの会話をしてみるけれど

なんでだろう…。

こいつとこんな会話をしている状況に吐き気がする。



「私はてっきり…お見合いしたくなくて

何か演技でもしてるんじゃないかって心配だったのよ」

口元は笑いながら

でも真剣な目付きであたし達を見つめて確信をついてくる。




さすが母親

鋭い。



「まあまあ、母さんも二人を疑うのはそのへんで…」

オタクの父親がフォローをいれようとしてもまだ、納得いかなそうな母親は悩むフリをして見せる。


「ん〜…でも、じゃあ二人にお願いがあるんだけど?」


「何?ママ」


「本当に付き合ってるなら…

今、この場でキスしてみせて?」


その言葉に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。



キスッ!?

キスって…



口と口をつける接吻のことだと分かってて言ってるの⁉




あたしがこのデブで汚いアニメオタクと


キス?!

絶対無理でしょ?


あたしとこいつのキスシーンなんて…


想像できる⁈



ちょっと現実離れし過ぎたお願いごとじゃないかしら⁈



言葉なく、オタクに目で訴えるも気持ち届かず…


「分かったよママ」

あたしの意見も無視して返事をしたオタク。


「…ちょっと勝手に何言ってんのよ?」

小声で耳打ちする。



「マユちゃんは今日一日、僕の彼女だろ?」



それを言われたら何も言い返せない事を知っていてこいつは…



キスは

数えきれないくらいの男と
数えきれないくらいしてきた。

だけど…



こんな、人間として受け入れられない奴とするなんて
初めて。



悪夢もいいところだよ…。


どうやらあたしに時期外れの厄が訪れてるに違いない…。


過去厄の時にお祓いに行かなかったツケが回り回ってやってきたに違いないっ‼



< 41 / 100 >

この作品をシェア

pagetop