新アニオタ王子
香月さんに
最後の業務終了報告の電話をいれる。
「マユです。最後の仕事終わりました。」
『ご苦労様』
いつもと変わらない香月さんの様子に少し淋しさを感じながらも
「今までありがとうございました」
と 告げると
『真っ直ぐ店に戻って来い』と 言われ
タクシーをひろい店に向かった。
あたしを一番に出迎えてくれた
受け付けのおばちゃん
「マユちゃんお疲れ様。淋しくなるわぁ」なんて、ちょっと涙ぐんで言ってくれたから
また少しあたしの淋しさも増す。
「おばちゃんもあんま無理しないでね」
「ありがとう」
コンコン。
事務所のドアをノックする。
「どうぞ」
いつもと変わらない香月さんの声がドア越しに聞こえた。
「失礼します」
なんて言った事も無いのに
緊張してるのか
ついつい…。
この緊張はなんだか
学生の頃に職員室に入る時みたいな微妙な緊張。
「お疲れ様」
優しく微笑む香月さんの顔を見て
なんだか突然涙が滲む。
「お疲れ様です」
「二年間、一生懸命お客様に幸せをプレゼントしてくれてありがとう。」
…そんなのお金のためだし。
だけど
そんな事言われたら、あたしのこの二年間無駄なことだけだったんじゃないと思えてしまう。
「俺も店もマユのおかげで随分、成長できたよ。」
「そんな…あたしはただ…」
困るあたしを見てふっと鼻で笑う香月さん。
「次の仕事は決まったのか?」
「…まだ」
「それなら仕事が決まらなくて困ったら俺に電話しろ。
紹介してやるから」
「紹介…ですか」
「安心しろ、風俗業じゃないから」
「じゃあ…仕事みつからなかったら甘えます」
右手を差し出した香月さんに
あたしも左手を差し出して
さよならてなありがとう。を
こめて。
握りしめた手の平。