新アニオタ王子
香月さんと最後の挨拶を交わして初めて気付いた。
一人っ子のあたしは
クールで頼りがいのある香月さんにきっと
「お兄ちゃん」
としての存在を感じていたのかもしれない。
だからどんなにカッコいいと思っても。
あたしが香月さんに恋をしなかったのは心のどこかでそんな思いを抱いてたから
なのかも…。
まぁ
普通、お兄ちゃんと体の関係はもたないけどね。
少しだけ名残り惜しい気持ちと
新しいスタートへの期待と不安を店を後にしたあたしは
早速、アルバイト情報誌をめくった。
一年位仕事しなくても平気なくらいの貯金はある。
けどあたしは
この持て余してる時間の使い方が分からないから
新しい仕事でもしないときっと、静かな時間の淋しさで朽ち果ててしまうかもしれない。
片っ端から面接を受けて
片っ端から落とされてく。
当たり前だ。
風俗嬢丸出しのあたしを雇うまともな店なんて
あるわけない。
考えてみたら
恋人クラブでしか働いた事が無いあたしに
普通の仕事なんて勤まるのだろうか…。
多少の覚悟はしていたものの、数うちゃ当たるみたいな気分でいたから…。ここまでダメだと正直、へこむ。
岡本は…今頃、何やってんだろ。
あたしばっかりあいつの事考えてるんだろうな。
それが悔しいけど…
だけど気になりだしたら止まらない。
ちょっとだけ…
ちょっとだけ
あいつの声が聞きたくて
迷いながら
手にした携帯。
震える手で
携帯をそっと耳にあてると呼び出し音が聞こえる。
『もしもし?』
透き通った綺麗な女性の声が
岡本の携帯電話にでた。
驚いて慌てて電話を切った。
心臓が今にも
破裂しそうな程
激しく鼓動を打つ。