エレファント ロマンス
忙しい仕事を切り上げ、定時で退社してくるお父さんのケータイは帰宅後も鳴りっぱなし。


「はい。前園です」


お味噌汁をお椀に注ぎながら、またケータイの着信に答えている。


「ですからね、山田さん。それは嫌がらせとかじゃないんですよ。それぞれのチームリーダーさんはあなたの成績を少しでも上げるために、色々アドバイスをしてるだけなんです」


お父さんは生命保険会社の営業課の係長。


いわゆる生保レディーを束ね、成績を管理する仕事だ。


「いやいや、そうじゃなくて。え? 辞める? ちょ、ちょっと、待って下さいよ」


電話で女性外交員をなだめすかしている。


電話を切った後は溜め息をつき、うかない顔。


とても、私が抱えている悩みを打ち明けられるタイミングではない。


「いただきます」


「あ、うん。先に食べなさい」


今度は別の人に電話をかけるお父さんの顔を、食事しながら盗み見る。


とても若い。


私と十歳しか違わないお父さん。


そう。


私とお父さんは血がつながっていない。

< 14 / 95 >

この作品をシェア

pagetop