エレファント ロマンス
「ただいまー」


玄関に入ると、リビングの方からお父さんの声が聞こえてきた。


「いやぁ、そうですか。家では全然そんな風じゃないんですけどねぇ」


大きな声で、本当に楽しそうに喋っている。


―――誰だろう……。


ウチに来るのは、仕事に行き詰まって相談にくる保険外交員のおばさんぐらいだ。


仕事の愚痴を聞くお父さんの声も、いつもはしんみりとしている。


が、廊下まで響いてくる声はやけに明るい。


リビングに続くガラスの扉の向こうに、黒っぽい背広が見えた。


誰?


顔を傾けるようにして、リビングの中を見た。


鳴沢先生の横顔が見えた。

「…………!」


息が止まりそうになった。
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