エレファント ロマンス
3.
Andrias japonicus 【オオサンショウウオ】
「由衣ーっ」
下でお父さんが呼んでいる。
それでも私は、薄暗い部屋のベッドに伏せたまま、返事も出来なかった。
さっきから、セーターの袖口で何度も唇をぬぐっている。
「由衣ー?」
呼びかけてくるお父さんの声が訝るように曇ってきた。
おそるおそる部屋を出て、階下の様子をうかがった。
ちょうど、ダークスーツの後ろ姿が、リビングを出て玄関へ向かう所だった。
「由衣ー。先生、帰られるぞー。降りて来てお見送りしなさーい」
また、大きな声で呼ばれ、ドキッとした。
「かまいません。由衣さん、『これから勉強する』と言ってましたから」
すかさず先生が言う。
「そうですかぁ?」
お父さんが申し訳なさそうに言っている。
聞いていられなくなって、私は部屋に戻った。
―――先生に裏切られた。
怖かった……。
嫌い……。
嫌い……。
大嫌い……。
私はベッドに伏せて泣いた。
下でお父さんが呼んでいる。
それでも私は、薄暗い部屋のベッドに伏せたまま、返事も出来なかった。
さっきから、セーターの袖口で何度も唇をぬぐっている。
「由衣ー?」
呼びかけてくるお父さんの声が訝るように曇ってきた。
おそるおそる部屋を出て、階下の様子をうかがった。
ちょうど、ダークスーツの後ろ姿が、リビングを出て玄関へ向かう所だった。
「由衣ー。先生、帰られるぞー。降りて来てお見送りしなさーい」
また、大きな声で呼ばれ、ドキッとした。
「かまいません。由衣さん、『これから勉強する』と言ってましたから」
すかさず先生が言う。
「そうですかぁ?」
お父さんが申し訳なさそうに言っている。
聞いていられなくなって、私は部屋に戻った。
―――先生に裏切られた。
怖かった……。
嫌い……。
嫌い……。
大嫌い……。
私はベッドに伏せて泣いた。