エレファント ロマンス
透真は空になった箱を足元に置いたまま、象のデラを見下ろしている。


冷たい目。


私は観覧バルコニーから、ふれあいコーナーに降りた。


透真がハッとしたように私を見た。


ここに誰かがいたことにやっと気づき、驚いたような顔。


「そんなエサのやりかた、かわいそうだよ」


透真の顔に嫌悪感が表れた。


「うるさい。象がどれだけ危険な生き物か、知らないからそんなこと、言えるんだ」


そう言い捨てた彼は、箱を抱えて階段を駆け上がって行った。


危険?


ゾウが?


何だかピンと来ない。


首をひねりながら、のどかにエサを食べている象を見下ろした。


どこからともなく現れたおじさん飼育員が、割れたリンゴをひとつ拾い上げ、泥をぬぐった。


キレイになった果実に象が鼻を伸ばす。


おじさんは手渡しで象にリンゴを与え、優しく耳を撫でてやった。


ほほえましい。


透真とはえらい違いだ。


そこに見覚えのあるおじいさんがやってきた。


園長さんだ。


飼育員と園長さんは地面にぶちまけられたエサを見ながら、深刻な顔で何かを話し合っている様子。


桜井透真。今度こそ解雇かな。


パスを恵んでもらった直後だけに、ちょっぴり同情する。


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