エレファント ロマンス
その時、グラウンドの向こうから『蛍の光』が聞こえてきた。


閉園時間だ。


しまった……。


塾に遅れちゃう。


急いで動物園を後にした。


走ってバス停に向かっている途中、ポケットの中のケータイが鳴り始めた。


引っ張り出して見たけれど、知らない番号だった。


「はい……」


『前園?』


鳴沢先生の声を聞いて、全身が硬直したようになって足が止まった。


「今日も欠席だったから、これから君の家に申請書を届けようと思ってね」


そんなことされたら、今日も学校を休んだことがお父さんにバレる……。


「それか……。明日の夜、僕のマンションまで取りにきてくれる?」


先生のマンションに……。


それがどういうことか、想像するだけで背筋が凍る。


「実はもう、君の家の近くまで来てるんだけどね」


「待ってください!」


思わず叫んでいた。


「明日……とりにいきます……」


「そう。じゃあ、待ってる」


電話の向こうで鳴沢先生が冷たく笑っているような気がした。



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