エレファント ロマンス
「由衣。うちへ戻って来ないか」


いきなり切り出された。


お母さんの葬儀の時にも父は
『もう、お前がここにいる理由はないだろう。戻って来なさい。お前の部屋もそのままにしてあるから』
と、言った。


部屋はそのままかも知れないけど、私の知らない女の人が家に出入りしていることもわかっていた。


「パパ。お葬式の時にもそう言ったけど、あれから一度もその話、しなかったじゃない。なんで、急にそんなこと言うの?」


やっと愛人と切れたのかな、と思った。


「今日、前園君がカネの無心にきた」


「お父さんが? お父さんがパパにお金貸してくれって言ったの?」


信じられなかった。



「今までは、こっちから養育費の話を申し出ても頑として受け付けなかったあの男が、急に訪ねてきて『由衣の学費を貸してください』って言ったから驚いたよ」


やっぱりお父さんの収入であんな御嬢様学校の学費を払うなんて無理だったんだ……。


それなのに、
『学費免除の話は断ってもいいんだよ』
って笑ってくれた。


きっと万策つき果てて、父を頼ったのだろう。


父はクラスメイトたちの父兄みたいなセレブではない。


が、両親が資産家で、自身も貸しビル業を営んでいる。



学費の援助くらいは容易いことだろう。


その父は誰にも頭を下げたことがないと豪語するような人。


とてもデリカシーがあるとは言えない。


お金を借りに言ったお父さんにどんな態度をとったのか、想像するのが怖い。


「パパ、お父さんに失礼なこと言わなかったよね?」


「由衣にカネの心配なんかさせたら承知しない。そもそも血の繋がらない男が他人の娘と一緒に住んでること自体が異常なんだ、って言ってやった」


やっぱり……。


お母さんがパパと離婚した理由は、パパの女性関係だけではないような気がした。


「私、パパとは暮らしたくない。だって、お父さんみたいに優しくないもん」


そう言い捨てて、私は車を降りた。


< 43 / 95 >

この作品をシェア

pagetop