エレファント ロマンス
「けど、この制服はまずいですよね?」


英倫女子の制服は清楚すぎて逆に目立つ。


外では滅多に見かけない制服だけに、数人の生徒がカフェにいただけで、その店が『お嬢様ご用達』と有名になったりする。


そのせいか、制服で飲食店に立ち寄ることは、校則で禁じられている。


が、この規則に罰則はなく、しばしば破られる。


とは言え、教師がこの規則やぶりを黙認することは出来ないだろう。


「私、家に帰って着替えて来ましょうか?」


「いや。その部屋のクローゼットに彼女が着てた服があるから、適当に選ぶといい」


先生がリビングの奥にある扉を指した。


「その前に、お父さんに電話してもいいですか? 先生と一緒に食事して帰るって」


「もちろん、かまわないよ」


優しい笑顔。


鳴沢先生が信頼していた頃の担任の表情に戻っていく。


嬉しかった。


先生の目の前で電話をかけた。


お父さんは先日の家庭訪問にすっかり気をよくしていて、
「先生にちゃんとお礼言って帰るんだよ」
と、子供を諭すように言っただけだった。


「じゃあ、着替えてきます」


先生の言った部屋の中は、やはりきちんと整頓されていた。


「うわぁ……」


クローゼットを開けて驚いた。


色とりどりの服が隙間なく掛けられている。


先生の話し方からして、彼女とはもう別れているはず……。


なのに、まだこれだけの衣類がそのままにしてある。


絶大な人気を誇る先生の中に消え残る過去の女性への未練。


意外に思えた。


数枚の服をとって、胸にあててみる。


どれも大人っぽい。


―――先生の大切だった人って、ホントに私に似てるのかな……。


そう疑わざるを得ないぐらい、私とはかけ離れた女性らしいテイスト。


一番無難そうに見えるシフォンのワンピースを選んだ。


―――本当に着てもいいのかな。


ドキドキしながら制服を脱ぎ、小花柄のワンピースに袖を通した。


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