エレファント ロマンス
広い個室。


ふたりはいつもこんな場所で食事をしていたんだろうか。


静か過ぎて沈黙が重い。


何を話していいかわからず、授業やクラスメイトのことを話題にした。


鳴沢先生は黙って私の顔を見ている。


真っ直ぐな視線に緊張した。


オードブルの前に、私のグラスにもシャンパンが注がれた。


普通のレストランと違って、オーダーしなければ水は出て来ないのだろうか。


喉はカラカラに渇いている。


けれど、アルコールは一滴も飲んだことがない。


「お酒、ぜんぜん飲んだことないの?」


「はい……」


「無理にはすすめないけど、度数の低いシャンパンだから、少しだけ飲んでみれば? 見なかったことにしてあげるよ」


先生が笑った。


少しだけ緊張がとけた。


喉の渇きに勝てず、おそるおそるシャンパングラスに手を伸ばした。


甘い。


驚くほど口当たりがいい。


グラスが空になるのと同時に、ギャルソンがなみなみと金色の液体を注いでいく。


「あ、あの……」


水を注文するタイミングを逸した。

< 63 / 95 >

この作品をシェア

pagetop