エレファント ロマンス
気がつくと、ワンピースに着替えた部屋のベッドの上だった。


「あっ……」


鳴沢先生がベッドの端に腰を下ろし、私を見ている。


意識がなくなる前の強引な態度を思い出し、いっぺんに目が覚めた。


「うっ……」


飛び起きようとして強烈な頭痛に襲われ、頭を抱えた。


ズキンズキンと頭の芯がうずく。


不意に先生の指が髪に触れてくるのを感じた。


背中の三つ編みを手にとり、カラーゴムを外しているのがわかる。


なに?


ビクビクしている間に、ほどかれた髪の毛が胸元におりてきた。


え?


今度はハサミの先が視界に入ってきた。


髪の毛をいきなりチョキンと切られた。


ゆるいウェーブの残る毛髪が、パラパラと目の前に落ちてくる。


ハッとした。


「先生? 何を……」


「動くとケガするよ」


穏やかな笑顔。


優しい言い方が逆に恐ろしい。


急激に体からアルコールが抜けていくように、寒くなった。


怖くて泣きそうだった。


誰か助けて……。


髪を切られている間、震えながらうつむいていることしか出来なかった。


先生は私の髪を肩の上で切りそろえ、ようやくハサミを置いた。


静かに顎を持ち上げられた。


けど、恐ろしくて視線を上げることができない。


私は嗚咽を殺しながら、じっと目を伏せていた。


スッとメガネが外された。


「やっと会えたね」


その奇妙な言葉に、おそるおそる睫を上げた。


鳴沢先生の瞳に自分が映っている。


が、先生は明らかに私ではない女性を見つめていた。


「涼宮(すずみや)……」


そう呼びかけるトーンで、先生の大切な人が『教え子』だったんだとわかった。


ふつう、恋人を苗字で呼び捨てにすることはしないだろう。


でも、教師と生徒ならあり得る。

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