エレファント ロマンス
いつもの売店で菓子パンと牛乳を買った。


食べ終わって一息つくと、やっぱりデラと透真の様子が見たくなった。


―――こっそり見ちゃえ。


バルコニーに隠れるようにして、象舎の中を見た。


散歩を終えたデラが、他の飼育員に連れられて戻ってきたところだった。


その先輩らしき飼育員はすぐにどこかへ立ち去った。


象と一緒に取り残された透真は不安そうに掃除を続けている。


その様子を見ていて、ふと不思議に思った。


デラは透真に対してだけ、一定の距離を保っているように見える。


透真が自分に近づくことなく、掃除ができるように、少しずつ場所を移動しているように見えるのだ。


―――もしかして、デラ、透真に気を遣ってるの?


―――自分が怖がられてること、知ってる?


そんな気がして仕方ない。


まさかね。


そう思いながら、そっと、彼らの様子をうかがっていた。


しばらくして、透真がふれあいコーナーに上がってきた。


私は見つからないように、バルコニーの奥に身を潜めた。


パタッ。


透真は不安そうにデラを見てから、餌箱を下に運んだ。


今日は上から落としたりせずに、デラの側まで運んでやっている。


―――桜井透真、成長したかも。かなり腰がひけてるけどね。


感心しながら、見守った。


少しして、デラがびっくりするような行動をとった。


餌箱の中のリンゴをひとつ鼻先でつかみ、透真の方に差し出したのだった。


まるで透真に、食べろ、と言っているみたいに。


胸の奥がじいん、と熱くなった。


―――デラ。なんてイイ子なんだろう。


「俺はいいよ。お前、食えよ」


困ったように笑いながら、透真が言っている。


ああ……。


感動のため息が出た。


―――なんか、いい。すごく、いい。




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