エレファント ロマンス
「それは違うだろう」


透真が否定した。


「たぶん、涼宮沙羅は鳴沢の立場を守りたかったんだ」


「先生の立場?」


「鳴沢は将来、理事長になる男だ。生徒と恋愛関係になった挙げ句、妊娠させるなんてスキャンダルは許されない」


「でも、そのために桜井さんに罪をかぶせるなんて……」


許せない。


「俺もショックだったよ。涼宮の相手が鳴沢だって確信があったし、彼女を追及しようと思った。けど、その前に彼女は死んでしまった」


「え?」


「海に落ちたんだ」


海に……。


「事故だったって言われてる。俺もそう思いたい」


透真は辛そうに目を伏せた。


「彼女が自分の命を差し出してまで、あんな冷たい男を守ったとは思いたくない」


その声には悔しさが混じっているような気がした。


「けど……。涼宮沙羅は亡くなる直前、俺に電話してきたんだ。たった一言『桜井先生、ごめんね』とだけ言って電話を切った」


「そんな……」


「俺に泥をかぶってくれっていう彼女の遺言のような気がした。だから、俺は黙って学校を辞めた」


やりきれないような顔。


―――もしかして桜井さんも、その女の子のこと、好きだったの?


そう思うと、なぜか切ない……。

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