エレファント ロマンス
コーヒーを飲み干した透真が、左手のダイバーズウォッチに視線を落とした。


素っ気なく
「そろそろ閉園時間だ」
と、立ち上がろうとする。


「あ、あの……」


透真に会えなくなる寂しさを打ち明けたい衝動に駆られた。


「なに?」


聞き返してくる顔には全く緊張感がなくて、逆に言葉に詰まる。


「も、もうちょっとだけ……デラのこと、見ていっていい?」


本当は透真のことを見ていたい。ずっと……。


やがて会えなくなるのなら、1分でも長く……。


自分の気持ちに気づいた途端に、どんどん恋心がつのっていくようだった。


「別にいいけど。正面玄関もう閉まるから、由衣が入り口に使ってた裏口から出るしかないぞ?」


わざとらしい嫌味な言い方。


いつもなら強気で言い返しているはずなのに、『由衣』と呼んでもらえたことが嬉しくて返事もできない。

―――私、ほんとにどうかしてる……。


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