エレファント ロマンス
お客さんの居なくなった園内の遊歩道を、透真と並んで歩いた。


遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。


私は気のきいた話題を見つけることができず、黙って透真の歩幅に合わせて歩いていた。


「由衣。オットセイのプールの方、行ったことあるか?」


ふと思いついたように、透真が口を開いた。


「うん。あるよ」


この動物園にはアシカやイルカのショーを見せるための大きなプールがある。


「俺、幼稚園の頃、いつも閉園後にここへ来て園内を探検しててさ」


透真が子供の頃の話を始めた。


その頃のことは思い出したくないだろうと思っていたので意外だった。


「夕方、アシカのプールにつながってる地下トンネルを歩いたんだ」


プールは動物園より後で建設されたものらしく、国道を挟んで向こうの敷地にある。


こちらの動物園エリアからは長い陸橋か、地下の通路を通っていくしかない。


「トンネルの真ん中まで来たとき、通路に誰かいるのに気づいてさ」


何だか話がオカルトめいてきた。


「そ、それで?」


ドキドキしながら聞き返す。


「よく見たら、プールから脱走したオットセイだったんだ」


「は?」


「俺、その頃、まだ5歳ぐらいだったから、薄暗いトンネルの中でじっとこっちを見てるオットセイが怖くてさ」


「まぁ、わからなくもないけど」


「俺はダッシュで来た道を引き返した」


「オットセイは?」


「振り返って見たら、オットセイも逆の方向にダッシュで逃げてた」


「あはははははは……」


園児とオットセイのダッシュを想像して笑ってしまった。
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