エレファント ロマンス
が、次の瞬間、デラがいきなり透真の体を押し始めた。


透真は驚いた顔のまま、デラの巨体によって壁際に追い詰められていく。


逃げ場を失った透真の体が壁に押し付けられた。


―――うそ……。やめて、デラ。


世界各国で起こっている飼育中の事故を思いだし、悲鳴を上げそうになった。


その私に向かって、透真が唇の前に人差し指を立てて見せた。


騒ぐな、というように。


私はそれを見て、自分の口を両手でふさいだ。


けれど、透真は完全にデラと壁の間に挟まれている。


私はオロオロしながら、象舎の中の様子を見守っていた。


そして、気づいた。


デラが透真に体をすりつけるようにして、甘えていることに。


デラは透真を押しつぶそうとしたのではなく、じゃれようとしたのだ。


デラは透真に撫でてもらったことがよっぽど嬉しかったのだろう。


ゆるみかけていた涙腺が、完全に開いて涙がこぼれた。


透真も必死に涙をこらえているような表情で、静かにデラの体を撫でてやっている。


彼の瞳にデラに対するいとおしさがにじみ出ているように見えた。


―――ふたりっきり……じゃなくて、ひとりと1頭だけにしてあげよう。


ずっと透真を見ていたい気持ちをおさえ、私は象舎を離れた。



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