マヨイガの街
「ふん、臭うな」

そばで朔太郎が鼻をひくひくと動かして言った。

「臭う。臭うぞ。人臭い──」

「え……」

彼の顔を見上げた私の肩を、突然朔太郎がつかんで抱き寄せた。

天狗とは言え、男の人にそんなことをされたのは初めてで、
私は思わず頬を染めて身を固くして──


「そして化け物臭い──これは人間と天狗の臭いだ!」


言い放つなり、朔太郎は手にした扇を大きく振った。


再び激しい風が巻き起こり、
辺りの壁や襖をなぎ倒し、
天井を飛ばして、


思わず目を閉じた私が、再び瞼を開いた時には、

辺りには木っ端微塵に壊された屋敷の残骸が広がり、


そして、


ゆらりと、瓦礫の中から数人の人影が立ち上がった。
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