マヨイガの街
動く者がいなくなったのを確認すると、朔太郎は美しい瞳を私に向けて、

血色の悪い手をそっと伸ばし、立ち尽くしている私の頬を優しく撫でた。


「すまんな。怖い思いをさせただろう」


巻き込みたくはなかったが……と、私を気遣ってくれる美しい若者を前にして、私の胸は激しく鳴っていた。

それはたった今目にした、この世ならざる化け物同士の信じがたい争いのせいなのか、

それとも

恐ろしい出来事から常に私を守ってくれながら、凛々しい立ち回りを演じた、
この精悍な面立ちの青年のせいなのか、判然としなかった。


「この者たちは……?」

私は、倒れ伏した侍や烏天狗を見回して、恐る恐る尋ねた。

うむ、と頷いて、朔太郎は少し困ったような表情を見せながら、


「実は我々の仲間が掟を破って人の世に関わろうとし、倒幕を掲げる人間どもをそそのかして、天下太平のこの徳川の世を転覆せしめんと人を集めているという報せがあってな、

俺の支配する山に潜伏していると聞いて、今日はこの夜小丸を成敗するためにこの頭山に参ったのだ」


そのように語った。

出会った時に彼が、公儀隠密と名乗って私にしたのとほぼ同じ内容だった。

「最初に鈴にした話は、あながち嘘というわけでもなかったのだ」

と、朔太郎は苦笑した。
< 28 / 82 >

この作品をシェア

pagetop