マヨイガの街
私は震える指で、
朔太郎の手の平から、この世に二つしか存在しないはずの桜貝の片割れをつまみ上げた。

そっと、己の帯に吊り下がった貝殻と重ねると、

十年以上の歳月を経て、貝殻はぴたりと一つに合わさった。


「どうして、朔様がこれを……?」


美しい天狗に、私は震える声で言った。


「これは……これは……私と佐久太郎の、将来を誓い合った約束の証です!」

「約束の……証……」


朔太郎は金の双眸を大きく見開いて、私を見つめていた。


「佐久太郎なのでしょう?」


押し寄せあふれ出た過去が、
頬を濡らし、
視界を滲ませてゆく中、

私は再び懐かしい人の名で彼を呼んだ。


「朔様がやはり、佐久太郎なのでしょう──!?」


「違う、俺は……」


灰色の髪と金の瞳をした若者は、苦しげに、うめくようにそう言って──


私の視界に、


今まさに彼の背に向けて刀を振りかぶった、烏天狗の姿が映った。


「朔様──!」
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