マヨイガの街
娘はそんな妖怪変化を不思議そうに見上げていたが、


「いいえ」


ぽつりと言って、弱々しく微笑んだ。


「……ありがとうございます……おかげで、私は、ようやっと、本当のことを、知れました。

死んだことすら……誰にも知られぬ……ままでは……佐久太郎は、あまりに不憫で、ございました……」


ふふふ、と鈴華は笑った。
こんな時であると言うのに、花もほころぶような笑顔であった。


「あなた様は、やっぱり、お優しいお方でした。

鈴は……本当に、あなた様にお会いできて……良かったです」


朔様、と──


十年間思い続けた幼なじみの名ではなく、途切れんとする最後の意識の際でこの俺の名を呼んで、

鈴華は目を閉じた。
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