マヨイガの街
「落ち着いてよく聞け鈴」と言って、朔太郎は私の肩をつかんで私の顔を覗き込んで、

朔太郎に間近で見つめられて、私は先刻のようにまた頬が熱くなって、心臓が落ち着きなく騒ぎ出すのを感じた。

「瀕死の鈴を助けるために俺は、鈴の体に神通力の元であるナノマシンを送り込んだ」

「ナノ……?」

「目に見えぬほどの小さく大量のカラクリ機械だ。天狗の体を維持し、怪我もたちまち治療する能力を有している」

「まあ……」

私は驚いて、綺麗さっぱり怪我が消え、なんともなくなっている自分の体を押さえた。

そのようなものが己の体に入り込んだとは、信じがたかった。

しかし続けて朔太郎が私に話したのは、更に信じがたい内容であった。


「鈴、お前は天狗になったのだ」


と、朔太郎は少しだけその美しい顔をかげらせながら言ったのだ。


「無論、肉体的にそうなったというだけで、今のお前では天狗の術も何一つ使えぬだろうがな」


私は吃驚仰天し、何とか朔太郎の言葉を理解しようと試みてみたが──突然、天狗になったと告げられても、私にはぽかんと彼の金色の瞳や灰色の眉を見上げることしかできなかった。

「だからな、鈴。俺はこれからお前に、我々のことを教える」

そんな私にそう言って、

朔太郎がそれから話したことについては、その時の私には更に更に理解するのが難しかった。


「我々は人間だ」


と、美しい天狗はその人間離れした容姿で、もっと人間離れした烏天狗と己とを示して言ったのだった。


「人間……?」

私は眉をひそめて朔太郎の言葉を反芻し、咀嚼して飲み込もうとしてみたが、どういう意味であるのかさっぱり飲み込めなかった。

「そうだ人間だ」

こんな人間はいまい。

「鈴よ、今は何年だ?」

「慶応三年です」

唐突な問いかけに困惑しながら私が答えると、朔太郎はうむうむと頷いた。


「俺やこの影時はな、平たく申せば慶応三年より約二千年後の人間ということになる」
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